本研究室の大学院生(博士前期修了者)は、その研究室活動において「問題解決のためのトップダウンの研究活動」を経験して修了しています。多くの大学院において、その研究室の中核をなす研究対象のみを掘り下げて学位論文がまとめられていますことはご承知のことと思います。おそらく、就職活動中の学生を審査する過程で皆様ご経験があるように、近年の学生諸君は自分の研究したことのある対象以外の対象についての知識と経験がはなはだしく欠落しているため、いざ新しい研究に着手しても、受身に徹して主体的に問題解決に取り組もうとしません。
当研究室では、これは日本の研究開発を担う若者を教育する観点から、極めて危機的状況だと考えています。優れた研究者・技術者は、問題解決のために必要なことならば何でも吸収して自分のものとしながら開発を進めてきたはずです。これは、大学の研究室が学術的な成果を作り出すことに重点を置きすぎて、長い間「職業研究者」または「大学教員」を輩出するための教育に終始してきたことにその原因があると考えられます。上田研究グループでは、その反省に基づき、まず「問題解決」を目標に、必要な知識や技術を洗い出し、足りない部分は自ら学んで自分の知識と経験を形成し、しかも限られた時間内で問題解決に近づく研究活動を展開することを最も重視しています。
当研究室の博士前期課程修了者は、概ね3年間の間、与えられた問題の解決のために自己改造していく経験をつむことで、新たな課題を主体的に解決する基本的なスキルを身につけて修了しています。すなわち、
1)上田研究グループの修了者は、工学的に解決できる社会問題を見つけ出す能力を身につけています。
2)問題解決のために必要な研究課題を切り分け、それぞれの解決に必要な研究スキルを具体化します。
3)自分のスキルで解決できる部分、新たなスキルを身につければ解決できる部分、そして、既にそのスキルを有する者とチームを組むことで解決できる部分を的確に判断できます。
4)スキル獲得のための自己改造に躊躇しません。また、スキルを有する他のエキスパートに解決課題を的確に説明して、チームワークで問題解決に携わることができます。
つまり、上田研究グループの修了者は、問題解決のための全体像を俯瞰しながら、適材適所に人員を配置し、各個人とチーム全体の両方が成長しながら問題解決するプロセスを適切に指揮することのできる、チームリーダーとしての基本的なスキルを備えています。
われわれの輩出する修了者は、指導的役割を発揮する将来の幹部候補生として働き、研究所や企業の研究部門において対費用効果の高い人材として活躍できるように教育されています。単なる専門技術者を並べるだけでは、船頭多くして船山に登るのたとえ通り、研究推進力の方向がそろわず迷走するばかりです。是非、上田研究グループの修了者をご評価いただき、チームワークの形成という決定的な要素をお任せいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。