かつて高分子は気体にならないと信じられた時代がありました。今では先のノーベル賞で話題になったように、生体高分子のほとんどが特殊な物理化学的処理を経て気体化され、精密な質量や分子の衝突断面積などを計測する技術が利用されるようになりました(最先端のマススペクトロメトリー法です)。
その分子をさらに破壊した断片(フラグメント)の質量分布から、様々な生体分子の検出や特定が可能になり、医療分野ではガンの兆候を見つけたり、たとえ微量でも生態や環境に負荷をかけるような物質を検出したりできるようになりつつあります。
残る課題はその生体分子の定量と、似たような質量パターンを持つ分子を間違いなく区別するための同定精度の向上です。本研究テーマは、生体高分子のガス化の過程と気体状態の分子の挙動を、量子化学的方法と分子動力学的方法を駆使して大規模計算機シミュレーションによってモデル化し、マススペクトロメトリー法に大きな飛躍を与えようとするものです。
得られた成果から、生命現象にかかわる様々な分子の挙動を定量的に追跡することができるようになり、体内においては病気の発見や治療に、また体外においては環境に存在する毒物や変異原性物質などの動態を追跡することができるようになるのです。